旅行人

2007年12月26日 (水)

『旅行人』'08年上期号(157号)

表紙:カッチ地方バンニの女性
特集:グジャラート インド、さらにその奥へ

 この雑誌が季刊から年2回刊になって最初の号です。特集はインドのグジャラート州。インドの中ではあまり観光客が来ないところらしく、だからこそこの雑誌で特集されたのでしょう。
 メインのライターは蔵前仁一編集長でした。以前にもグジャラートを訪れたことがあるそうで、ゆえに専門のライターに任せる必要もなかったのでしょう。小生も久方ぶりに、たっぷり蔵前節を堪能できました。

 特集以外で興味を持てたのは、まず渡邉義孝の「アルメニア教会建築紀行」です。旅行人ノートのシルクロード編で、モスク建築様式の変遷を解説していたのが彼だったのですが、ここでも教会の多様な構造をイラスト入りで、わかりやすく導いてくれます。
 また吉田一郎の作品は、以前「国マニア」を読んだことがあるのですが、今回の「流れ星国家の現代史」は、独立の一歩手前でついえたり、ほんの少しの間しか存在できなかった「国」について書いたものです。ここ四半世紀に限っても、意外に多くの地域が独立しようとしていたことがわかって、おもしろく読めました。

 さて、次の号の発行は6月1日ですが、どんな特集が組まれるのか、どんな作者が記事を寄せるのか楽しみです。

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2007年10月15日 (月)

『旅行人』'07夏号(156号)

表紙:ムラウ遺跡・シュエダゴン寺院
特集:ビルマ東西南北
 前号のネパールに続き、政情不安が続く国の特集です。取材時期がすこしずれていたら、この特集が組めたかどうか。
 まず「ビルマ東西南北」(文:瀬川正仁)。ビルマ社会の現状が、観光スポットとともに語られています。麻薬の出荷に左右される闇の為替相場、上座部仏教とイスラム教、イラワジカワイルカの現状、カジノで賑わう中国国境の街などが紹介されています。
 ほかには馬車、学習塾についての記事も、おもしろく読めました。

 特集以外ではまず「滅びゆく湖アラル海」(文:上野清士)。旧ソ連の綿花地帯を潤したアラル海の水が、干上がる危機に瀕する過程が明らかにされています。

 それから「フンザで弥勒菩薩」宮田珠己久々の登場です。  さらには田中真知「クマおじさんの贈り物」。このひとは自分の身の回りに起きたことを、どうしてこう暖かく書けるのでしょうか?

 ところでこの雑誌は、次号から12月、6月の年2回刊になるそうです。社員を増やしたくないという蔵前仁一編集長の方針だそうです。充実した記事をたまにしか読めなくなるのは残念ですが、今後に期待したいと思います。

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2007年7月14日 (土)

『旅行人』 '07春号(155号)

表紙:グニュウと呼ばれるサリーとチョロを身に着けたネパールの少女
特集:平和が訪れたネパールの首都へ カトマンズの春

 王室での射殺事件とギャネンドラ現国王の直接統治、マオイストの反政府活動など、治安が安定しなかったネパールですが、'06年に国王が議会の復活を宣言し、マオイストも議会に参加、最悪の状態からは立ち直ったようです。ただ今年6月に予定されていた制憲議会選挙が11月に延期され、マオイストがからむ小競りあいが続くなど、なかなか気を許せる状況ではなさそうです。
 そんなネパールにも近代化の波がおし寄せ、環境、住宅、教育、伝統文化などについて、日本やほかの国々が経験してきた問題を抱えているようです。今号の特集はそんな現代のネパールの姿を教えてくれます。

 小特集は、前川健一によるバンコクについてのレポートです。このひとの文章を読んでいつも思うのは、鉄道における種村直樹、スイス旅行についての池田光雅と同じく、確かな知識を背景にした安心感がある反面、自らの意見を主張しすぎる、くだいて言えば説教臭さがただようきらいがあります。読まれるかたはフグでも食べると思って、そのあたりを覚悟のうえご賞味ください。

 ほかには「間違いだらけのツアー選び」。本来ならば個人旅行指向のこの雑誌ではなく、もっと一般的な雑誌の旅行特集などに載せられるべき内容だと思うのですが、あらためてツアーの内幕を確認できてよかったです。

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2007年2月19日 (月)

『旅行人』 '07冬号(154号)

表紙:エチオピア ティグレの修道士
特集:はるかなる神の国へ エチオピア

 この号は、エチオピア特集というよりは、エジプトに住んだ経験のある作家、田中真知の特集というべきでしょう。特集の94ページ中44ページに彼の文章が記載されており、いつもの連載も休むことなく4ページ掲載されているのには驚嘆します。おそらくこの3ヶ月間は編集側が出版や改定作業に追われ、取材旅行にも出られず、かわりに信頼を寄せるこの作者に記事を任せたということなのでしょうが、あの心温まる文章にふれられるのは、嬉しいかぎりです。
 特集内容はエチオピア正教(キリスト教の一派)についてのほか、人々の文化、風習についての記述が多く、興味深く読むことができました。この国に興味のあるかたは、一読をお勧めします。

 田中真知の連載は、水津英夫さんについてでした。昨年12月に他界した水津さんは、年金を元手に海外を旅し、旅先でけがや病気になっては、出国時に掛けた旅行保険を利用して、入院生活を送るような暮らしをしていたかたで、いままでも旅行人の記事に採りあげられていました。ご冥福をお祈りするとともに、本文に記載されていたウェブサイトにリンクを張っておきます。
◦森信雄「旅の仙人写真館」
◦田中真知「旅の仙人 水津英夫、おおいに語る」

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2006年12月 5日 (火)

『旅行人』 '06秋号(153号)

表紙:ロンドン地下鉄
特集:アンダーグラウンド

 地下鉄、下水道、地下住居、採石場、地下壕など、世界中の地下世界の特集です。この中で小生が行ったことがあるのは、モスクワの地下鉄くらいでしょうか。本文にもあるとおり、駅が深いところにあり、高速のエスカレーターで下りていくと、装飾の施された空間が広がっていたのを思いだします。もっとも「ノックアウト強盗がいる」と脅されていたので、落ちついて観察する余裕はありませんでしたが。

 特集記事の中でおもしろかったのが、テムズ川をくぐるロンドンの地下鉄、イースト・ロンドン線に関するものでした(文:大森実樹)。この路線は世界で初めての河底トンネルで、マルク・ブルネルという人物によって編みだされた、側壁を補強しながら掘り進む、シールド工法で造られました。この工法はフナクイムシが木の中を食い進むときに、唾液で側壁を固めながら進むことを参考にしたそうで、今ではダイアモンドの刃を用いた自動掘削機が造られ、開削工法をとりにくい都心の地下鉄や下水道を掘るときなどに使われています。当時は手で掘るとすぐに煉瓦を積む工法で、テムズ川底を通すのに18年の歳月がかかったそうです。
 この工事にも参加した、英国の鉄道建設に貢献したアイザムバード・ブルネルはマルクの息子で、彼の功績から、優秀なデザインの鉄道車両・施設に贈られるブルネル賞が設けられています。

 他の記事では、パリに無数に掘られたカタコンベや、ヒトラーが自殺したベルリンの地下壕、中国の地下住居であるヤオトンについての記事が興味を引きました。

 特集以外では、前号の続きになる西蔵鉄道の乗車記が公開されています(文:長岡洋幸)。写真がきれいです。
 

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2006年7月29日 (土)

『旅行人』 '06夏号(152号)

表紙:ポタラ宮と人民解放軍
特集;ラサの21世紀

 今月、標高5,072mの高地を通ってラサに至る西蔵鉄道が開通しました。それにあわせてラサの特集です。記事を、ラサの現状と現代史を長田幸康が、歴史的背景を石濱裕美子が書いています。

 小生が今まで行ったことのある国でも、宗教が生活に根づいている国は、崇高さ、誇りが感じられました。おそらくチベットもそういう地域の一つではあるのでしょう。ただ、ギャミ(漢人)による侵攻と弾圧、という印象があり、今まで行ってみたいとは思いませんでした。
 しかし現地の若者の感覚はもっと割りきっているようです。「文革後しか知らない私にとっては、チベット色はむしろ濃くなっているように感じるの」ということばを聞いて、小生は訪れてみたくなりました。

 この特集を読んで目からうろこが落ちたのが、チベット仏教が観音信仰に基づいていて、ポタラ宮のポタラが観音浄土である補陀洛山を意味することです。補陀落山寺といえば熊野の観音霊場ですし、京都の観音霊場、清水寺の舞台正面の山は補陀落山で、これは六波羅蜜寺の山号でもあります。五体投地という礼拝のしかたは、今でも東大寺修二会(お水取り)の行法に残されていますし、大乗仏教を通して、日本との繋がりを感じずにはいられません。小生も一度ラサを訪れ、観音菩薩に五体投地で祈りをささげたいですね。

 今号の小特集は、格安航空会社についてでした。一般の旅行代理店ではなく、ネットを通じて予約する、日本でいえばスカイマーク・エアラインズのような航空会社が世界的に増えているようです。使用料の安い空港を利用することで、日本とは比較にならないほど安く乗れるようです。機会があれば利用してみたいと思いました。

追記:30日の産経新聞朝刊(福島香織)によると、西蔵鉄道は開業以後
 1.半永久凍土を通る区間の基礎が一部沈下
 2.橋やコンクリートに亀裂が走って劣化が進行
 3.予想を上回る砂塵被害
 4.野生動物の線路内進入
以上のような問題に直面しているようです。さらに1日の旅客輸送量2,500人の数十倍の予約希望があり、23日からの乗車券販売が中止され、現地の旅行代理店は多大なキャンセル料に悲鳴をあげているそうです。
 旅行人の次号予告に、長岡洋幸の「チベット鉄道乗車記」と書かれているのですが、乗れるのかな?

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2006年5月 5日 (金)

『旅行人』 '06春号(151号)

表紙:ダヌム・バレー(マレーシア・サバ州)
特集:ボルネオ かつて密林の島と呼ばれたところへ

 今号は、マレーシア、インドネシア、ブルネイにまたがる島、ボルネオ(インドネシア名カリマンタン)の特集です。ボルネオというと、オランウータンのいる熱帯雨林の島、というイメージがあり、小生もそう思っていたのですが、クチンやコタキナバル、バリッパパン、バンダル・スリ・ブガワンなどの街はかなり開けており、宗教もイスラム教、キリスト教、儒教、アミニズムと変化に富んでいるようです。

 特集の中では、乗り物好きの小生としては、インドネシア領にあるボルネオ最長の川を遡る、「マハカム川紀行」(文:安間繁樹)マレーシア領コタキナバルーテノム間を走る北ボルネオ鉄道を書いた「北ボルネオのスロートレイン」(文:蔵前仁一)に興味をそそられます。そのほか、東南アジア最高峰の「キナバル山登頂案内」(文:上鶴篤史)は、登ってみたい気にさせられました。
 あと、木材伐採による自然破壊はかなり深刻なようで、元の植生にあわせた植林もうまくいかず、結局マーガリンなどの原料になる、アブラヤシの林と化すことが多いようで、胸が痛みます。

 特集以外では、エッセイ「アフリカの棘」がよかったです。あいかわらず田中真知は、外国での思い出をさらっと暖かく書くのが上手ですね。

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2006年2月 3日 (金)

『旅行人』 '06冬号(150号)

表紙:ティルヴァナンタプラムとチェンナイ
特集:ディープ・サウス・インディア

 今号の特集は南インドでした。以前のイエメン特集のときもそうですが、蔵前編集長夫妻の得意分野のためか、特に興味をそそられる内容でした。観光化されていない「田舎」である一面と、ハイテク化されてゆく「都市」としての一面が混在しているのがよくわかりました。
 中でおもしろかったのが、石井光太の『クリシュナと「長髪」の花園』でした。筆者が取材をとおして知りあった、ふたりの物乞いとの交流を記したもので、筆者が行った親切(約6万円の借金の肩代わり)が、貧しい彼らふたりの友情を壊してしまいかねなかったことと、それが解決にむかう様が、あたかも白黒映画のように描写されていました。

 あと150号ということで、その奇跡が『旅行人の17年』という文で回顧されていましたが、月刊から季刊に変わった原因が伝染病「SARS」だったとは驚きでした。SARS流行→海外旅行者減→ガイドブックや旅行雑誌の購買者減→旅行人の季刊化。まるで、風が吹けば桶屋が儲かる、ですね。

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